

【コラム】ホテルの時間
伊藤若冲とは〜代表作品・展示会情報から東京の常設展示スポットまで
目次
- 1.伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)とは?その生涯と代表作品
- 2.東京開催の伊藤若冲展と見どころ
- 3.若冲作品が見られるスポット
- 4.若冲の羅漢とは
- 5.若冲作品と庭園散策が楽しめる「ホテル椿山荘東京」
1.伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)とは?その生涯と代表作品
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まずは、伊藤若冲の生涯と代表的作品、その魅力をご紹介します。
江戸時代中期にあたる1716年、伊藤若冲は京都・錦市場の青物問屋「桝屋」の長男として生まれました。23歳で父の急逝にともない家業を継いだものの、商売にはあまり熱心でなく、芸事や人付き合いにも関心を持たず、生涯独身でただひたすら絵を描く生活を好んだと伝えられています。
当時の日本画の主流であった狩野派や中国画の技法を学んだのち、若冲は動植物の写生に没頭するようになりました。そして、40歳を迎える頃、若冲は家督を弟に譲って、京都の禅寺・相国寺に移り住み、隠居生活の中で代表作の一つである『動植綵絵(どうしょくさいえ)』を描き始めます。
『動植綵絵』は鶏や鶴、オウムや孔雀、梅や菊といった動植物を描いた30幅に及ぶ彩色画であり、若冲が約10年の歳月をかけて完成させた大作です。その緻密なタッチや大胆な構図、鮮烈な色彩をはじめ、若冲の生き物に対する観察眼と圧倒的な表現力が光る作品といえるでしょう。この作品は『釈迦三尊像』とともに若冲から相国寺へ寄進され、現在は国宝として皇居三の丸尚蔵館に収蔵されています。
色彩鮮やかな作品で知られる若冲ですが、50代以降は版画や水墨画に才能を発揮しています。しかし、この時期の作品は多くありません。それは、若冲が錦市場の危機を救う町年寄としても大きな活躍を果たしたからです。若冲は世事に疎いとみられていましたが、錦市場の営業をめぐる争議の解決に町年寄として奔走し、これにより錦市場は存続の危機を脱することになりました。
その後も若冲は家業の収入に支えられながら創作を続けますが、1788年に起こった天明の大火で自宅と工房を失ってしまいます。晩年は京都の中心地を離れ、伏見区深草にある石峰寺の近くで静かに暮らしながら、『五百羅漢石像』の制作に取り組み、85歳まで穏やかに人生を送りました。
2.東京開催の伊藤若冲展と見どころ
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ここ数年の人気再燃を踏まえ、近年東京で開催された伊藤若冲の展覧会についてご紹介していきます。
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・百花ひらく―花々をめぐる美―(皇居三の丸尚蔵館、2025年3月11日〜5月6日)
皇居三の丸尚蔵館のコレクションの中から、四季折々に咲く花々が題材の作品を紹介した「百花ひらく―花々をめぐる美―」。同館が収蔵する『動植綵絵』全30幅のうち、花を描いた『桃花小禽図』『牡丹小禽図』『梅花小禽図』『薔薇小禽図』の4幅が公開されました。
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・相国寺展―金閣・銀閣 鳳凰がみつめた美の歴史(東京藝術大学大学美術館、2025年3月29日〜5月25日)
相国寺派の名品を紹介した「相国寺展」では、若冲の作品から、巧みな水墨の筆技でユーモラスな表情の虎を描いた『竹虎図』や、80代の作といわれる『亀図』、国の重要文化財である『鹿苑寺大書院障壁画 一之間 葡萄小禽図』などが展示されました。
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・HAPPYな日本美術―伊藤若冲から横山大観、川端龍子へー(山種美術館、2024年12月14日〜2025年2月24日)
古墳時代から近現代まで、人々の長寿や子宝、富などへの願いが込められた作品を集めた特別展。若冲が長寿の象徴である鶴を躍動感あふれるタッチで描いた『鶴図』や、素朴で愛らしい風情漂う『伏見人形図』などが公開されました。
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・出光美術館の軌跡 ここから、さきへ IV 物、ものを呼ぶ―伴大納言絵巻から若冲へ(出光美術館、2024年9月7日〜10月20日)
出光興産株式会社の創業者・出光佐三氏の最後の蒐集品と新収蔵品を展示した2024年秋のコレクション展では、若冲による『群鶴図』や、約85,000個の升目で描かれた壮観な『鳥獣花木図屏風』が展示されました。
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・生誕300周年 若冲展(東京都美術館、2016年4月22日〜5月24日)
伊藤若冲の生誕300年を機に、初期から晩年までの50作品が集結した東京初開催の大規模展。若冲が相国寺に寄進した『釈迦三尊像』や『動植綵絵』に加え、83年ぶりに発見された『孔雀鳳凰図』、漆黒の背景が冴え渡る『花鳥版画』などの名作が一堂に会しました。
3.若冲作品が見られるスポット
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では、こうした展覧会以外に若冲作品を鑑賞できるスポットはあるのでしょうか。
都内で若冲作品を所蔵する施設といえば、皇居三の丸尚蔵館や東京国立博物館、東京藝術大学大学美術館、出光美術館、サントリー美術館、東京富士美術館、山種美術館、大倉集古館などが挙げられますが、いずれも常設での展示は行っていないようです。
日本全国でいうと、京都・相国寺の承天閣美術館にある『月夜芭蕉図床貼付』や『葡萄小禽図床貼付』、石峰寺の『五百羅漢石像』、滋賀・義仲寺にある天井画『四季花卉(かき)図』(複製)などは時期を問わず一般公開されています。それぞれのお寺を訪れる際には、ぜひ拝観してみてはいかがでしょうか。
そして都内で唯一、若冲作品をいつでも鑑賞できる場所が文京区にあるホテル椿山荘東京です。庭園内に並ぶ『羅漢石』は若冲の下絵から生まれた石仏であり、元々は京都の石峰寺にあった貴重な『五百羅漢石像』の一部だと伝えられています。
※皇居三の丸尚蔵館は2026年秋まで休館、出光美術館は長期休館、承天閣美術館は2025年10月18日まで休館となっています。
4.若冲の羅漢とは
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次に、五百羅漢の意味をはじめ、若冲が制作に至った背景とその特徴についてご紹介します。
まず「羅漢」とは、厳しい修行の末に悟りを開いた高僧のことをいいます。「五百羅漢」とは、お釈迦さま(仏教の開祖)が亡くなった後、その教えをまとめるために集まった500人の悟りを得た弟子たちを指します。
伊藤若冲は、代表作の『動植綵絵』や『釈迦三尊像』を相国寺に奉納した後、石峰寺の住職と出会い、61歳で『五百羅漢石像』の下絵づくりに取りかかりました。
この作品では、お釈迦さまの生涯が8つの場面に分けて表現されており、「誕生」から「亡くなる瞬間(=入滅)」、そして「最終的な安らぎの境地(=涅槃)」に至るまでが、石像に丁寧に描かれています。
若冲が描いた下絵をもとに、石工たちが彫った石像はもともと1,000体以上あったといわれていますが、現在はそのうち約530体が京都・石峰寺に、約20体が東京のホテル椿山荘東京の庭園に残されています。
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ホテル椿山荘東京の羅漢石とは
ホテル椿山荘東京の庭園で見られる羅漢石は、伊藤若冲の下絵による『五百羅漢石像』のうちの約20体であり、1925年(大正14年)頃に京都の石峰寺から移設されました。さまざまな姿勢で表情豊かな石仏群の中には天女や動物の姿も見られ、日本美術史研究者の太田梨紗子氏は「青々とした自然の下、雲海の中をたゆたうような羅漢さまは、現代人にとって世の中のしがらみから解き放たれた理想の姿のよう」と語っています。
四季折々の美しい自然が広がる庭園の中、ゆっくりと散策をしながら若冲の生涯や仏への真摯な祈りに想いを馳せてみてはいかがでしょうか。
5.若冲作品と庭園散策が楽しめる「ホテル椿山荘東京」
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ホテル椿山荘東京は、東京の文京区という都心にありながら、静かで落ち着いた環境を有するホテルです。敷地内には自然豊かで広大な庭園が広がり、伊藤若冲の羅漢石をはじめ数々の史跡を鑑賞することができます。
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若冲作品とともに楽しむ庭園散策
庭園内には羅漢石のほかに、室町時代前期の部材が取り入れられた三重塔や茶室、樹齢約500年の御神木や鎌倉後期の逸品といわれる般若寺式石灯籠など、さまざまな史跡が点在しています。林泉回遊式庭園となっており、緑豊かな芝生地から池、築山、曲水、樹林地へと移り変わる景色を眺めながら一回りすると、まるで一巻の絵巻物を鑑賞したような趣あるひとときを過ごすことができます。
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さらに、この庭園の魅力は、そうした歴史的価値にとどまりません。ここには、日本の自然美をより深く楽しめるよう、四季では語り尽くせず、「七季(ななき)」という独自の季節の巡りが息づいています。
春には20種・100本もの「桜」が華やかに咲き誇り、初夏にはみずみずしい「新緑」と、夜空に幻想的に舞う「蛍」が訪れる人々を魅了します。続く「涼夏(りょうか)」では、滝のせせらぎが涼を誘い、秋には彩り豊かな「紅葉」、そして「冬」には雪景色の中に咲く100種・2300本もの「椿」が、静かな華やぎを添えます。
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梅雨が明ける7月からは、日差しを浴びて輝く緑とともに、国内最大級の霧の演出「東京雲海」や、約300個の江戸風鈴が奏でる涼やかな音色が、夏の風情を一層引き立ててくれます
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庭園への入場は、ご宿泊や営業施設をご利用のお客様に限らせていただいております。庭園散策をご計画の際はぜひ、開放感あふれる客室でのご宿泊や、旬の味覚を堪能できるレストランでのお食事などをあわせてご検討ください。
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東京で伊藤若冲作品を鑑賞するならホテル椿山荘東京へ
誕生から300年の月日を超え、その類まれなる表現力と技術で今も多くの人の心を惹きつける伊藤若冲。「作品を間近で見てみたい」とお考えの方はぜひ、ホテル椿山荘東京へ訪れてみてはいかがでしょうか。
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<イベントのお知らせ>
9/13(土)開催!若冲と京の美食 ~水墨画と羅漢石を巡る~
日本美術史研究者 太田梨紗子氏のナビゲートのもと、若冲の人となり、当時の京の食文化、そして若冲作品の魅力を巡る一日を開催いたします。
日本が誇る奇才の芸術家「伊藤若冲」。今度の休日のお出かけはぜひ、若冲作品の鑑賞をお楽しみください。
(※2025年7月現在の情報です。記載の内容につきましては、予告なしに変更になる場合がございますので、ご了承くださいませ。)